ゾル・ゲル法によるセラミックスの合成

“有機−無機ハイブリッドイオン伝導材料”

東京理科大学 土谷 敏雄

西尾 圭史

 

1. 目的

 ゾル・ゲル法はガラスやセラミックスを作製する比較的新しい方法である。一般的なガラスの作製法(溶融法)は1000℃を越える高温において原料を溶融し、急激に冷却することで再固化させる。ファインセラミックスもまた粉体を1000℃を越える高温で焼結(粉体焼結)する事により得る。これに対してゾル・ゲル法では溶液から出発し、加水分解、縮重合などの化学反応を経てゲル(ゼリー状の固体)を作製し、熱処理をすることにより内部に残された溶媒を取り除き、さらに緻密化を促進させることによりガラスやセラミックスを得る。この為、他の方法と比較して低温で容易に作製することが可能となる。また、化学反応を利用し、低温で作製することが可能となることから有機物と無機物の複合化が可能となる。

有機-無機ハイブリッド材料は、ハードコンタクトレンズ材料として初めて開発されもので、有機物と無機物それぞれの特性を合わせ持つ新規材料である。このことから、有機高分子の性質を損なうことなく固体化できる可能性が高く、イオン伝導体として期待できる。有機-無機ハイブリッドは、無機成分と有機成分を共存させるために、低温合成プロセスであるゾル-ゲル法により作製されている。ゾル・ゲル法は、液相からの作製法であることから、原料を分子レベルで均質に混合することが可能であり、組成の制御といった長所を持つ。また、荷電担体であるイオンをマトリックス中に均質に分散させることも可能なことから、イオン伝導体の作製に有利であると考えられる。

小型通信機器の普及や電動輸送用機器の開発が進み、電池に対しても「小型・軽量」等の性能向上が求められている。また、原料資源や環境のことを考慮すると、使い捨ての一次電池よりも、繰り返し使用できる二次電池の方が有効である。現在の二次電池は、鉛蓄電池とNi-Cd(ニッカド)電池が主であるが、どちらも重金属を使用することからエネルギー密度的には不利であり、すでに理論的な限界にも近づいている。鉛・カドミウムは環境や人体にも有害であるため、回収等の対策も必要となる。このような背景から、エネルギー密度が高く、環境にも優しい二次電池として、リチウム系二次電池が登場し開発が進められている。現在のリチウム系二次電池では、電解質に有機溶媒を用いた液体電解質が主流であるが、液漏れや発火等の問題点があり、その改善のため固体への転換が望まれている。

 アルカリ金属塩は水の中に入れると水分子の大きな双極子が塩を取り巻き、塩を解離させアルカリ金属イオンと水和する事により安定化させる(図1-a)。ポリエチレンオキシド(PEO)系の有機高分子は、1973年にWrightらによってアルカリ金属塩と錯体を形成して(図1-b)高いイオン伝導性を示すことが報告されており、さらに1979年には、Armandらによって固体電解質への応用が可能との報告がなされている。これらの報告から、PEO系の有機高分子が、固体電解質のマトリックスとして注目を集め、盛んに研究されている。PEO系の有機高分子は、ガラス転移温度(Tg)以上のゴム領域で、巨視的には固体であるが、化学的あるいは物理的な架橋構造のため、微視的には高分子鎖が液体のような状態であり高いイオン伝導性を示す。しかし、現在までに、液体状態で示す、10-4(S/cm)オーダーのイオン伝導性を保ちつつ固体化された例は少ない。

(a)水溶液中でのイオンの溶媒和

(b)ポリエチレングリコール中でのイオンの溶媒和

図1 アルカリ金属イオンの溶媒和

2. 実験内容概略

 ゾル・ゲル法とは無機、有機金属塩の溶液を出発溶液とする。この溶液を加水分解および縮重合反応によりコロイド溶液(Sol)とし、さらに反応を促進させることにより流動性を失った固体(Gel)を形成させる。このGelを熱処理することによりガラスやセラミックスを作製する方法である。一般的にゾル・ゲル法では金属アルコキシドを原料とする。金属アルコキシドはM(OR)xで表される化合物である。ここでMは金属、Rはアルキル基である。ここで代表的な金属アルコキシドであるSi(OC2H5)4(Tetra Ethoxy Silane : TEOS)の加水分解、縮重合について説明する。TEOSの加水分解反応は次式で表すことができる。

nSi(OC2H5)4 + nH2O nSi(OH)(OC2H5)3 + nC2H5OH

ここで示した反応がさらに促進されると最終的にSi(OH)4となる。ここで生成した2分子の水酸化物間での縮重合反応をさらに示すと

Si(OH)4 + Si(OH)4 (OH)3Si-O-Si(OH)3 + H2O

2分子間で1分子のH2Oが生成することから、加水分解のために添加するH2OSi(OC2H5)4に対して2倍molで良いことになる。通常の加水分解反応は非常に遅いため、反応には酸または塩基触媒を用いることが多い。加水分解反応は触媒により大き

図2 酸触媒下での金属アルコキシドの加水分解・重合反応

く変化し、生成物の形状にも影響を与える。まず、酸触媒を使用した場合の反応について説明する(図2)。酸触媒を使用した場合の加水分解は求電子反応による。溶液中のH3O+はアルコキシル基(-OR; R=CnH2n+1)の酸素に対して攻撃し、SiORSiOHとし、結合が切れることにより生成したR+HO-と結合しアルコールを副生成物として形成する。反応が進むにつれてアルコキシル基とH2Oが減少するため、加水分解反応速度は徐々に低下する。この加水分解反応が始まると同時に縮重合反応も始まるため、生成したSi(OC2H5)3(OH)は周辺のSi(OC2H5)3(OH)と脱水縮重合を起こす。これらの反応が進行すると生成するシロキサンポリマーは直鎖状に近い構造となり、絡み合うことで3次元編み目構造を構成し、自由に動き回ることができなくなるために流動性を失ったゲルとなる。酸触媒(フッ酸を除く)のみを使用した場合は反応性が低く、密度の低いゲルを形成しやすいため、ゲル化までに長時間を必要とし、H2Oや副生成物であるアルコール等を内部に多く含んだゲルを形成する。

次に塩基触媒を使用した反応について説明する。塩基触媒を使用した場合HO-Si(OC2H5)4に対して求核反応となり、Siに直接攻撃をする(図3)。HO-は非常に負の電荷が強く、-OC2H5も負に帯電しているため立体障害を起こし、反応性は低い。しかし、多量のHO-が周囲を取り囲むことにより確率的ではあるが反応が開始する。HO-により攻撃を受けたアルコキシドは一時的にSi(OH)(OC2H5)4となるが、不安定な状態のためRO-が脱離し、H2Oから解離したH+との間でアルコールを形成する。この反応により生成したSi(OH)(OC2H5)3OH基は非常に短い側鎖で構成されているため立体障害が軽減され、OH-の攻撃を容易に受ける。また、攻撃されるSiの量は減少

図3 塩基触媒下での金属アルコキシド加水分解・重合反応

 することはないことから反応速度は急激に増加し、一気に加水分解されSi(OH)4となる。Si(OH)4の全てのOH基は縮重合することが可能であるため、非常に3次元性と密度が高いゲルを形成する。また、3次元性が高いことから粒状のシロキ酸ポリマーを形成しやすく、高い緻密性からゲル骨格内部にH2Oやアルコールを含有することが難しくなる。

 ポリエチレングリコールはHO-(C2H4)n-OHで表される有機高分子である。末端にOH基を有していることから加水分解された金属アルコキシドと脱水縮重合反応を起こし、結合を形成させることが可能となる。無機酸化物であるSiO2と有機高分子であるポリエチレングリコールとの複合化はこの縮重合により形成される。

3. 実験用装置、器具、薬品

Si(OC2H5)4

和光純薬 

500ml   2,400

C2H5OH

和光純薬

500ml 2,000

H2O

蒸留水

NH4 OH

和光純薬

500ml 1,000

HCl

和光純薬

500ml 1,050

LiClO4

和光純薬

25g 1,800

Co(NO3)26H2O

(無くても良い)

マグネティックスターラー 、撹拌子、ポリプロピレンビーカー、ビーカー、テフロン製メスピペット、メスピペット、安全ピペッター、テフロン製ビーカー、ウォーターバス、乾燥機(発泡スチロールの箱の中に白熱電球を入れることにより簡易式の乾燥機を作製することが可能である)

4. 実験操作

 SiO2ゲル作製手順および有機無機ハイブリッドゲルの作製方法をフローシート(図4〜8)に示す。

 原料であるSi(OC2H5)4またはSi(OCH3)4をポリプロピレンビーカーにテフロン製メスピペットを用いて秤量する。メスピペットを用いて秤量したアルコールを加え、スターラーで撹拌する。完全に混和した後、H2Oを加えさらに撹拌する。この溶液に所定量の触媒を添加し、ウォーターバスを用いて加熱しながらゲル化するまで撹拌する。

 酸と塩基触媒の複合化の場合は上述した溶液を5分間加熱撹拌した後、塩基触媒をメスピペットを用いてゆっくり添加する。硝酸コバルトを添加する場合には酸触媒添加溶液を1分程度撹拌した後に加える(添加量は薄いピンク色になる程度で良い)。その後塩基触媒を加える。

図4 酸触媒によるゲルの作製     図5 塩基触媒によるゲルの作製

図6 酸塩基触媒の場合によるゲル作製1  図7 酸塩基触媒の場合によるゲル作製2

 有機-無機ハイブリッドゲルの作製では原料金属アルコキシドにH2Oを加え、完全に混和するまで撹拌する。その後、ポリエチレングリコールを加えさらに混和するまで撹拌し、リチウム塩を添加する。ゲル化までの時間を短縮するにはH2O添加後60℃程度で20〜30分加熱しながら撹拌した後、ポリエチレングリコールを添加する。

図8 有機-無機ハイブリッドイオン伝導体の作製

金属アルコキシドを加水分解させるためにH2Oを混合しなければならないが、この物質は金属の周りをアルコキシル基が取り囲んでおり、このアルコキシル基は疎水性であるためにH2Oと混和させることが困難となる。このため疎水性と親水性の両方を兼ね備える低級アルコールを添加する。このアルコールが間を取り持つことにより混和が可能となる。しかし、アルコキシル基の側鎖が極端に短いものは例外であり、容易にH2Oと混合することが可能となる場合がある。

溶液に溶媒や触媒を添加する際には必ず撹拌しながらメスピペットや駒込ピペットを使用して添加すること。多量の触媒を一気に入れると反応に偏りが生じることがある。

反応時に加熱するのは反応速度を高めることと、溶媒を蒸発させることにより加水分解された分子同士の距離を短くし、縮重合を容易に行える環境を作るためである。酸触媒のみを用いた溶液では加熱状態で約2時間程度でゲル化させることが可能となるが、調製した溶液を室温で数日保持することにより均質で透明度の高いゲルを作製することが可能となる。 

4.1 実験上の注意

5. 結果のまとめ

 Si(OC2H5)4の加水分解、縮重合による反応は使用する触媒に大きく依存し、形成するゲルの構造も視覚的に明らかに違いが見られる。酸触媒のみを使用した場合はゲル化までに2時間以上の長時間を必要とするが、塩基触媒を使用した場合は触媒添加直後から始まる。また、酸触媒により作製したゲルは非常に高い透過率を有し非常に柔らかいのに対し、塩基触媒で作製したゲルは不透明で粒状のゲルが凝集した状態となる。また、塩基性触媒反応では未反応の原料が多量に残存した状態である。しかし、先に酸触媒を添加し、反応を促進させた後塩基触媒を添加したものは塩基触媒添加により溶液が中和され、さらに塩基性とする事によりゲル化が促進される。これは酸触媒と塩基触媒の長所の複合化であり、はじめに酸触媒により部分的に加水分解をおこし立体障害を軽減させ、さらに塩基性とすることにより残りの全てを加水分解することが可能となり、未反応の原料を残すことはない。硝酸コバルトは酸性溶液中でピンク色を呈し、塩基性溶液中で濃い青色となる。これはコバルトイオンに対する配位状態変化が原因である。このことを利用してゲル化反応と触媒添加量に対する溶液の酸性から塩基性に変化する状態を観察することができる。酸添加後の溶液に硝酸コバルトを添加すると溶液はピンク色を呈する。この溶液に50倍に希釈したアンモニア水(約0.1mol/l)を徐々に滴下するとピンク色が薄まり、やがて青色となる。1mol/lHCl1ml入れた溶液に約0.1mol/lのアンモニアを滴下するのだから10ml滴下時にほぼ中和が完了しているはずであり、この時点で溶液の色は薄い青色になる。さらに滴下を続けると溶液の色は濃い青色となり、溶液は流動性を失い固化する。このことにより触媒の効果を観察することが可能となる。

 有機-無機ハイブリッドゲルの作製ではアルコキシル基が短い金属アルコキシドを使用した。Si(OC2H5)4は単体でH2Oと混合することはできない。疎水性と親水性を兼ね備えるC2H5OHを添加することにより混和させることが可能となった。しかし、アルコキシル基が短いSi(OCH3)4はアルコールの添加なしで混和させることが可能である。また、LiClO4は酸化剤として知られており、触媒と同様な作用を促す。このため、短時間でポリエチレングリコールとSiO2の複合材料の作製が可能となる。また、ガラス転移点が室温以下であるポリエチレングリコール中ではLiイオンは液体中と同様な動きが可能となり高いイオン伝導性を示すようになる。

 

参考文献 

  1. 作花 済夫、ゾル-ゲル法の科学、アグネ承風社 
  2. 柳田 博明 他、セラミックスの科学、技報堂出版 

付録

SiO2ガラスを作るには

SiO2ガラスをゾル・ゲル法から作る場合、急速な乾燥は亀裂の発生や割れを引き起こす原因となる。割れを引き起こさずにガラスを得るためにはゆっくりとした乾燥が必要となる。手順を以下に示す。 

  1. 触媒は酸のみを使用し、加水分解および縮重合をゆっくり行う。溶液を調製後、容器にラップでふたをしてゲル化するまで室温で放置する(気温によってゲル化までの差が生じるが1から2週間程度)。 
  2. ゲル化後、ラップに針を用いて小さな穴を4つ程度あける。小さな穴をあけることにより溶媒が蒸発し、ゲルの収縮が始まる。数週間後、堅いゲルとなる。 
  3. この堅いゲルを600℃程度で加熱処理をすることによりガラスを得ることができる。残存した有機物は400℃前後で燃焼する。

    注意;以下の場合、ガラスが割れることがある 

    1. 昇温速度が速いとき
    2. 乾燥が十分でないとき