セラミック顔料の作製

    愛知県立常滑高等学校  セラミック科 松本 浩治

1.目 的

 日常生活の中で,視覚は重要な感覚で,五感の中で90%以上の情報を得るといっても過言ではない。その中で,色は大切な感覚で,人は色によっていろいろな情報を得たり,興味を持ったり,好き嫌いの目安にしたりする。洋服や車を買う場合も,デザインと色を基準に選んだり,同じデザインでも色によって見え方が大きく違ってくる。陶磁器においてもタイルや食器,花器などにさまざまな色が使われている。
 セラミック顔料に関する研究は,ファインセラミックスや機能性セラミックスなどの最先端材料に比べて時代遅れの感があるが,このような理由から現在または将来的にみても重要なテーマだと考えられる。
 セラミック顔料は,無機顔料の一種で,主に釉薬中に添加され,釉薬のガラス相の成分の一部となり,または,ガラス相中に固体粒子として発色する場合がある。顔料には,スピネル系顔料,酸化スズ系顔料などあるが,ここでは,ジルコン系顔料の合成を目的とする。また,顔料を使って色釉の試作や混色,コンピュータを使い簡易的な色測定など評価法も紹介する。

2.実験内容概略

2.1 セラミック顔料の作製

 ジルコン系顔料は,ZrO2と着色金属イオンとの間に化合物ないしは固溶体が形成され,次にこれがSiO2と化合してジルコン(ZrSiO4)となり,その際着色金属がジルコン結晶格子の中に固溶されるものである。ここでは,Zr/Si/V青(トルコ青),Zr/Si/Pr黄(プラセオジム黄),Zr/Si/Feピンク(サーモンピンク)の3つの顔料を合成する。  

2.2 セラミック顔料の混色と色測定

 作製した顔料を使って,色釉を作り混色実験を行う。測色色差計(colormeter)があればよいのだが,ここでは,コンピュータとデジタルカメラを使って色の数値化を行う。
 PhotoShop(Adobe社製)などのフォトレタッチソフトには,デジタル画像データの明るさ・コントラスト調整・色調補正などの加工をすることができる。また,デジタル画像の色測定を行なうことができるものもある。デジタルカメラで写真に撮り,コンピュータに入力しphotoshopの機能を使い,L*a*b*表色を測定し,色の変化を調べる。

3.科学的・技術的意味

3.1 セラミック顔料について

 セラミック顔料は無機顔料の一種ではあるが,塗料,インキ,絵の具などに用いられている一般の無機顔料とは無関係に発達してきている。
 セラミック顔料は主に釉薬中に添加され,釉薬のガラス相の成分の一部となり,又はガラス相中に固体粒子として発色する場合がある。これは酸化ニッケル,酸化コバルト,酸化銅,酸化クロム等の単独酸化物として釉薬中に添加して使用されるものと,スピネル,ジルコン等釉薬中で安定な結晶中に着色金属イオンを固溶させたものとに大別することができる。
 この中で単独酸化物は最も簡単であるが,安定性に乏しく,混合しての使用が困難である。 Cr/A1ピンク,Co青等に代表されるスピネル系顔料,あるいは酸化スズ系等の顔料は比較的高温まで安定であり,かつ安価なためかなり広く使用されていたが,1948年SeabrightによりZr/Si/V青が発見されて以来,Zr/V黄,Zr/Si/Pr黄,Zr/Si/Feピンク等の多数のジルコニウム系顔料が発見され,これらの顔料について数々の優れた特性が一般に認識されて広く使用されるようになってきた。

3.2 ジルコニウム系顔料の特徴

 ジルコニウム系顔料は,ZrO2に着色金属酸化物(V2O5)の付着した形とジルコン結品格子中に着色金属イオンを固溶した形のものとがあり,このうち特にジルコン系顔料は,釉薬中で極めて安定性があり,ほとんどすべての釉薬に適用できる特性をもっている。したがって異なる色調のジルコン系顔料を混合して使用しても反応が起こらないため,混色が自由に行える。またその焼成温度はSK12〜13まで使用でき,Cr/Al ピンク等のスピネル系顔料にくらべて高火度まで使用できる。これらの特徴に加えてその価格が比較的安価であるため,陶磁器用顔料中にジルコン系顔料の占める割合は増加の一途をたどっている。

3.3 ジルコニウム系顔料の種類と製法

3.3.1 Zr/Si/V青(トルコ青)  この顔料はジルコン結晶格子の中にバナジウムイオンを固溶させ青色に発色させたものである。ZrO2,SiO2等モル混合物に10wt%以下のV2O5を加えて熱しても完全なジルコンとはならず,遊離のZrO2とSiO2を残し,色も青ではなく緑色である。V2O5が約30%になれば鉱化剤がなくても800℃の焼成でトルコ青になるが,この場合はV2O5の低融点が有効なのであって,他の着色金属ではこのようにはならない。しかし,一般にはNaFが最も有効な鉱化剤で,この場合は3〜8%のV2O5でよい。
 一般にV源としてはNH4VO3が使用されるが,水の存在下では焼成時に生成する遊離アルカリがV2O5と結合してNaVO3を生成し,これはジルコン結晶中に入りにくいのでV2O5量の最適量はZrO2・SiO2に対するNaF,NH4VO3の比が重要である。
 焼成中に一部Na2SiF6が生成するので,ZrO2,SiO2混合物中にわずかにSiO2を過剰にすればZrO2で残るのを防ぎ,製品中にモルダント型のZr/V黄ができて緑色化をするのを抑制する効果がある。

3.3.2 Zr/V黄(バナジウム黄)  ZrO2に数%のNH4VO3を加え,1300℃くらいで焼成して得られる黄色顔料であり,ZrO2粒子の表面層にV2O5が化学的に結合したものである。 通常は微粒ZrO2にNH4VO3をV2O5量で3〜6%加え,更に色調,安定性を増すため少量のFe源又はTiO2を加えて1300℃で焼成して得られる。
 この顔料はジルコン系とは異なり鉱化剤はかえって発色に悪影響を与えるため添加しない。

3.3.3 Zr/Si/Pr黄(プラセオジウム黄)  この顔料はジルコン結品格子中にプラセオジウムイオンを固溶させて黄色に発色さ せたものである。 初期のこの顔料はPr6O11とNa2MoO4・2H2Oを使用していたが,経済的な理由によりPr6O11のみとなり,約95%純度のPr6O11をZrO2,SiO2に対して2〜5%を加えて作っている。
 トルコ青顔料とは異なり,Pr6O11は鉱化剤のメルトにはわずかしか溶けないので,塩を多量に加える必要がないが,焼成には高い温度が必要である。

3.3.4 Zr/Si/Fe ピンク(サーモンピンク)  ZrO2,SiO2,Fe源,鉱化剤を混合し,焼成して製造するピンク顔料である。Fe源としてはFeSO4・7H2O又はFeCl2・6H2Oがあるが,どちらかといえば前者の方が高温で分解するので望ましい。これは分解生成したFe2O3が熟成されずにジルコンに形成されるまで不活性だからである。

3.3.5 その他  ジルコニウム系顔料にはその他Zr/Si/Cr緑,Zr/Si/Niグレー等があるが,前者は発色強度が弱く市場ではあまり利用されない。後者のグレー顔料はジルコン微粉砕物に酸化ニッケル,酸化コバルト,酸化クロム等のスピネル系黒顔料用原料を添加し,焼成して得ることができるのでジルコニアの応用とはいい難い。

3.3.6 ジルコン系顔料の発色メカニズム  ジルコン系顔料の製造の際の問題点は,色調の安定性及び発色強度である。 ジルコン系顔料はジルコン結品格子中にV4+(青),Fe3+(赤茶),P r4+(黄)等の着色金属イオンを数%固溶させることにより,ジルコンの結晶を着色したものである。着色金属イオンをジルコンの結品格子中に固溶させるには,ジルコンの結晶格子が極めて安定なものであるため,例えばα−Al2O3中にCr2O3を固溶する場合のように単に両者を混合して加熱するのみでは全く反応しない。固溶させるためには,一般にZrO2とほぼ等モルのSiO2,数%の着色金属酸化物及び鉱化剤を混合し加熱する。
 その反応はまず,ZrO2と着色金属イオンとの間に化合物ないしは固溶体が形成され,次にこれがSiO2と化合してジルコン(ZrSiO4)となり,その際着色金属がジルコン結晶格子の中に固溶されるものである。

4.実験用装置,器具,薬品など

4.1 実験装置・器具

 加熱炉,磁性ルツボ,乳鉢,乳棒,天秤,時計皿,ビーカー,スパーテル

4.2 薬 品

薬品・規格

単  価

薬品・規格

単  価

ZrO2(BR90G)第1希元素化学工業(株)

2300円

NaF 1級 米山薬品工業(株)

4000円

SiO2(福島珪石) 日陶産業

150円

NH4NO3  日陶産業

1854円

NaCl 富田製薬 試薬特級

1442円

FeCl2・6H2O 米山薬品工業(株)

2060円

NH4VO3     日陶産業

1854円

FeSO4・7H2O 米山薬品工業(株)

2060円

Pr6O11     日陶産業

13000円

Na2WO4・2H2O   日陶産業

3000円

単価は/1kgあたり
日陶産業株式会社 〒451 愛知県名古屋市西区那古野1丁目2−1 tel(052)561-2301

5.実験操作・フローチャート

5.1 ジルコン系顔料の試作方法

(1) 次の組成になるように調合する。

   トルコ青  ZrO2  SiO2   NaCl  NH4VO3      (g調合)
   組成1   18  12   4.5  1.5
   組成2   18  12   4.5  3.6

   プラセオ黄   ZrO2  SiO2   NaCl  Pr6O11  Na2WO4・2H2O
    組成1  18  12    3   1.5    9
    組成2  18  12    3   1.5    9

   サーモンピンク   ZrO2  SiO2   NaCl   NaF   NH4NO3   FeCl2・6H2O   FeSO4・7H2O
    組成1  18  12   1.5  1.5  1.2    2.4      /
    組成2  18  12   1.5  1.5  1.2     /      2.4

(2) 乳鉢で水を使って湿式で混合粉砕した後,時計皿に移し,乾燥させる。それを磁器製のるつぼに入れ,トルコ青とプラセオ黄色は,1100℃,サーモンピンクは,1000℃で焼成した。

(3) 焼成物を粉砕後,6N硫酸または,塩酸と6N水酸化カリウムを使って洗い,水で十分洗った後,乾燥し粉砕して顔料にする。


  原料の調合                    10分
    ↓
  混合・粉砕                    30分
    ↓
   乾 燥                     5時間
    ↓
   焼 成 ( サーモンピンク1000℃,          7時間
    ↓   トルコ青,プラセオ黄1100℃)
  酸・アルカリ洗い                 3時間
    ↓
   乾 燥                     3時間
 

図1.フローチャートと所要時間

5.2 セラミック顔料の混色と色測定

 人間が識別できる色は,約700万〜1000万色といわれている。それらの色を体系化した物差しのことを表色系という。  表色系には,RGB表色系,マンセル表色系,XYZ表色系,L*a*b*表色系などがある。本実験では,L*a*b*表色系を座標で表す。縦軸には明度L*(0黒〜100白)をとり,a*とb*を平面直角座標にとり,色をこれらL*,a*,b*で表す。a*は,+で赤の度合,−で緑の度合,b*は+で黄の度合,−で青の度合を示す。  実験で試作したトルコ青,プラセオ黄,サーモンピンクの3つのジルコン系顔料を混色する実験を行った。

(1)セラミック顔料の混色 トルコ青+プラセオ黄,プラセオ黄+サーモンピンク,サーモンピンク+トルコ青の組み合わせで顔料1gに対し透明釉を10g加え,10%きざみで調合した。乳鉢で混合粉砕した後,テストピースに施釉し1250℃で酸化焼成した。  透明釉(福島長石55%,石灰石23%,仮焼カオリン4%,福島珪石18%)

(2)混色実験結果 デジタルカメラでテストピースの写真を撮り,photoshopのカラーピッカー機能を使い,La*b*表色を測定し,色の変化を調べた。実験した結果を表に示し,それをもとに作図した結果を図2に示す。

       表1.顔料の混色結果

トルコ青

 L*

 a*

 b*

100   0

69

−17

−25

90   10

71

−20

−12

80   20

71

−22

− 8

70   30

75

−20

− 3

60   40

75

−22

  3

50   50

80

−20

 27

40   60

89

−10

 27

30   70

84

−15

 16

20   80

90

− 8

 35

10   90

93

−10

 35

 0  100

94

−11

 59

     プラセオ黄

 

 

 

プラセオ黄

L*

a*

 b*

100   0

93

−11

 58

90   10

90

− 1

 56

80   20

88

  2

 54

70   30

84

  9

 55

60   40

79

 14

 51

50   50

76

 14

 46

40   60

76

 15

 43

30   70

70

 20

 41

20   80

67

 21

 38

10   90

68

 20

 38

 0  100

65

 26

 36

     サーモンピンク

 

 

 

サーモンピンク

L*

 a*

 b*

100   0

68

 23

 37

90   10

78

 17

 30

80   20

74

 14

 25

70   30

75

  4

 17

60   40

75

  3

 15

50   50

90

  0

 11

40   60

73

  0

  6

30   70

73

− 4

  3

20   80

71

−13

− 6

10   90

67

−11

−23

 0  100

67

−16

−25

     トルコ青

 

 

  図2 顔料のLab表色

  混色した結果,それぞれの顔料から異なった顔料までの変化を知ることができた。サーモンピンクは,オレンジの領域にあり,トルコ青の混色では,50%づつ加えた場合,灰色(GRAY)の領域に入った。今までは,測色色差計もなく,色の違いを表現することが難しかったが,数値化することができ,結果を細かく検証することができるようになった。また,もとになる顔料の色をあらかじめ測定し,それら顔料を混色して使った場合,実験をしなくても混合割合から色を推測することができ,コンピュータの色見本などを使って表示することもできる。
 陶磁器釉薬には,多数の色で構成されているものや結晶が析出しているものもあり,画像データを使って部分的な色の違いや状態を測定することができるようになった。

6.結果のまとめ

 セラミック顔料の製作実験は,本校の3年生実習で行っている。あまりきれいではない茶色や黒い原料から,きれいな青や黄色の顔料ができることに驚き,たいへん興味深く実験を行っている。(サーモンピンクは少し不評)また,顔料を混色し,色釉を作ったテストピースは,生徒が持ち帰っている。
 より進んだ実験としては,X線回折分析で,ジルコンの合成状態を調べたり,原料や鉱化剤を変えたり,科学的に検証する実験ができる。また,顔料を使って陶磁器用のクレヨンや転写紙をつくるなど顔料を生かした実験が考えられる。

参考文献

1)牛田国康,「ジルコニウム系顔料」,セラミックス,17.NO.6(1982)
2)大塚 淳「陶磁器用顔料」,セラミックス,34(11),(1999)
3)「色を読む話」,ミノルタ(株)カタログ