永久磁石の作製

バリウムフェライトの作製と見かけの残留磁化の測定

1.目的

バリウムフェライトを題材として取り上げ、原料粉末の合成・仮焼・成形・焼結・着磁,および焼結体のかさ密度・見かけの残留磁化の測定を通じて,セラミックスの合成や磁性セラミックスに興味を持ち、基礎的な知識を修得することを目的としている.

 

2.実験内容概略

 実験では,共沈法で合成した原料粉末を仮焼・成形・焼結してBaフェライト磁石を作製すると共に,Baフェライト磁石の見かけの残留磁化を測定して,作製した磁石の性能を評価する.これにより,溶液法によるセラミックス粉末合成の概念,磁性セラミックスの製造プロセス,磁気的測定の基礎を学ぶ.

3.科学的・技術的意味

3.1磁性体

 物質は磁場に対する応答によって,反磁性,常磁性,強磁性,反強磁性,フェリ磁性に分類される.この分類は,物質を構成する原子・イオンが永久磁気モーメントを有するかどうかということと,永久磁気モーメントを有する場合には,磁気モーメント間の相互作用の大きさがどのくらいかということに依存している.

 また、軟磁性材料は透磁率μが大きく,保持力Hの小さな材料である.このため,弱い励磁条件でも大きな磁束を発生し,高周波コイルやトランスの磁心などに用いられている. 硬磁性材料は残留磁束密度Bと保磁力Hが大きな材料である.このため,磁化するには強い励磁が必要であるが,一旦,磁化するとその状態を保ち続け,永久磁石として用いられる. 磁気記録材料は軟磁性と硬磁性の中間的な性質を示し,励磁の強さに比例した残留磁化が生じるので,磁気テープの記録媒体に使われている.

3.2フェライト

 フェライトは鉄を含む複合酸化物の総称であり,その多くは室温付近でフェリ磁性(一部,反強磁性)を示す.工業的な実用化につながる研究は我が国の加藤与五郎,武井武氏(東京工業大学)から始められ,現在では磁気記録媒体からトランスのコアあるいは流体軸受けなど広く応用され、次々と新しい製品も開発されている.またフェライトはその結晶構造によって,スピネル型(MO・FeO(M= Mg,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Cd,Cu) で表される),ガーネット型(3MO・5FeO(M=Y,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy)で表される),マグネトプランバイト型(MO・6FeO(M=Ba,Sr,Pb)で表される)に分類される.バリウムフェライト磁石は1950年オランダのフィリップス社によって開発されたもので、現在では永久磁石の主要な材料となっている.

 

4.実験装置、器具、薬品

4.1実験装置,器具

4.2薬品

5.実験操作

5.1共沈法によるバリウムフェライト原料粉末の合成(所要時間:2時間)

5.1.1バットの中の実験用ガラス器具の数・種類を確認してから,液体洗剤を使って実験用ガラス器具をていねいに洗浄する.洗浄後は,必ず,蒸留水で濯ぐこと.

5.1.2水酸化ナトリウム(NaOH)を12.5g,炭酸ナトリウム(NaCO)を3.15g秤量する.水酸化ナトリウムは潮解性があるので,必ずポリビーカーに秤量すること.

5.1.3 300ccビーカーに蒸留水100ccを入れ,これに水酸化ナトリウムを少しづつ溶解させる.多量の水酸化ナトリウムを一度に蒸留水に溶解させると,溶解熱によって,蒸留水が沸騰して危険である.

5.1.4水酸化ナトリウムが完全に溶解したら,炭酸ナトリウムを少しづつ溶解させる.これを溶液Aとする.

5.1.5次に,塩化鉄(FeCl・6HO)を10.14g,塩化バリウム(BaCl・2HO)を0.835g秤量する.塩化鉄も潮解性があるので,必要量取り出したら,試薬瓶のふたを閉めること.

5.1.6 100ccビーカーに蒸留水50ccを入れ,これに塩化鉄を少しづつ溶解させる.

5.1.7塩化鉄が完全に溶解したら,塩化バリウムを少しづつ溶解させる.これを溶液Bとする.

5.1.8溶液Aを十分撹拌しながら,その中に溶液Bを少しづつ滴下する.これにより,赤褐色の沈殿が生成する.なお,溶液Aを撹拌するときは,ビーカーを倒したり,あるいは溶液を飛散させないように注意すること.

5.1.9時計皿でふたをしてから,静置して沈殿を沈降させる.

5.1.10小型駒込ピペットで上澄み液を取り除く.注意深く行えば,液量を約125ccまで減らすことができる.取り除いた上澄み液は,廃液用ビンに一時貯めておくが,もし,廃液用ビンが一杯になったら,指定された廃液タンクに貯留する.この時も,防護メガネを着用すること.

5.1.11 500ccビーカーに蒸留水を約300cc入れ,ブンゼンバーナーで加熱して約60℃の温水を作る.この時,突沸を避けるため,ビーカーにはガラス棒を入れておくこと.

5.1.12大型駒込ピペットを使って,約60℃の温水を沈殿が入っているビーカーに少しづつ注ぎ,液量が約300ccになるまで希釈する.この時,温水に触れて火傷をしないように注意すること.

5.1.13再度,十分撹拌した後,時計皿でふたをして静置する.

5.1.14上澄み液のpHをpH試験紙で測定する.pHが約7になっていなかったら,6.1.10に戻って繰り返す.pHが約7になっていたら,6.1.15を行う.

5.1.15ブフナーロートにろ紙(5B)を敷き,蒸留水で全体を湿らせておく.

5.1.16図1に示すようにして吸引ろ過を行う.まず,水道の蛇口を少し開いてアスピレーターに水道水を流す.

5.1.17スパチュラを用いて,ろ紙をブフナーロートから剥がし,そのまま時計皿に載せて,105℃の乾燥機で約20時間乾燥させる.

5.2 仮焼(所要時間:0.5時間(除く電気炉操作時間))

5.2.1乾燥機から時計皿を取り出し,デシケーターの中で室温まで冷却させる.

5.2.2乾燥粉末の質量[g]を天秤で計る.

5.2.3乾燥粉末を乳鉢・乳棒を使って,乾燥粉末を十分粉砕する.(この時も防護めがねを着用する.)

5.2.4乾燥粉末をアルミナルツボに入れる.この時,乳鉢や乳棒に付着している乾燥粉末も,できるだけ回収するようにする.

5.2.5電気炉内を約10℃/minで昇温し,925℃で2時間保持してから炉冷する.

5.3 成形(所要時間:1時間(除く電気炉操作時間))

5.3.1仮焼粉末を乳鉢に入れ,粉末のざらつきを指頭で感じなくなるまで十分粉砕する.

5.3.2仮焼粉末約3gを50ccビーカーに入れ,PVA5%水溶液を3滴滴下して,スパチュラを用いてよく混合する.

5.3.3仮焼粉末を成型用金型に均一に充填する.パンチで仮焼粉末を圧粉して, 成形体の厚みが46mm程度になるまで仮焼粉末を充填する.

5.3.4パンチがダイスに真っ直ぐに入って,かつスムーズに動くことを確認したら,油圧プレスで成形する.この時,仮焼粉末に1000kgf/cmの圧力が負荷されるように,油圧プレスの油圧を調節する.保持時間は1分間とする.

5.3.5除荷するには,リリーフ弁をわずかに回して,30秒間程度かけて圧力を開放する.

5.3.6抜き型を用いて,仮焼粉成形体を取り出し,ピンセットを用いて,プラスティックケースのふたに載せる.

5.3.7仮焼粉成形体が破損しないように注意しながら,各仮焼粉成形体の厚さhgreen[cm]をダイヤルゲージを用いて1点測定する.

5.3.8仮焼粉成形体の質量Wgreen[g]を秤量する.

5.4 焼結(所要時間:0.5時間(除く電気炉操作時間))

5.4.1各仮焼粉成形体をアルミナ製セッター上の所定の位置に置く.

5.4.2アルミナ製セッターの蓋をして,電気炉内に静かに挿入する.

5.4.3電気炉内を約10℃/minで昇温し,1100℃で2時間保持してから炉冷する.

5.4.4焼結体の乾燥質量Was-sintered[g]を秤量する.

5.4.5焼結体の外径Das-sintered[cm]をマイクロメーターで3カ所測定する.

5.4.6焼結体の厚さhas-sintered[cm]をマイクロメーターあるいはダイヤルゲージで3回測定する.

5.4.7 #400の研磨紙で焼結体の上下面を研磨してバリを落とし,焼き肌面がほぼ平滑となるようにする.

5.4.8焼結体の厚さが5mm以上ある場合は,焼結体の上下面の平行度が狂わないように注意しながら,#400の研磨紙で研磨して,厚さを5mm未満にする.

5.4.9 #800の研磨紙で研磨して,上下面を鏡面に仕上げる.

5.4.10トイレットペーパーを用いて,研磨の際にできた粉を焼結体表面からきれいに拭き取る.

5.4.11焼結体の乾燥質量Wsintered[g]を秤量する.

5.4.12焼結体の外径Wsintered[cm]をマイクロメーターで3カ所測定する.

5.4.13焼結体の厚さhsintered[cm]をマイクロメーターあるいはダイヤルゲージで3回測定する.

5.5 着磁(所要時間:0.5時間

5.5.1試料の底面に鉛筆で試料番号を書いた後,試料を下磁極の上に載せる.

5.5.2上磁極と下磁極の隙間が5mmとなるように,スペーサーを用いて上磁極の位置を調節する.

5.5.3着磁時間を計測するための時計を各自用意する.

5.5.4図2の回路図で組み立てられた着磁用電磁石のメインスイッチがOFFになっていることを確認して,電源ケーブルをコンセントに差し込む.

直流電流i[A]

磁場H[A/m]

2.5

345000

5.0

573000

7.5

674000

10.0

752000

5.5.5メインスイッチをONにした後、スライダックの電圧調節つまみをゆっくり回し, 10Aの直流電流が流れる状態にする. この時の直流電圧は32Vとなる.なお,この着磁用電磁石を流れる直流電流i[A]と磁場H[A/m]の関係を表1に示す.

5.5.6この状態で1分間保持する.

5.5.7スライダックの電圧調節つまみをすばやく0Vまで戻した後、メインスイッチをOFFにする.

5.5.8磁極から試料を取り出す.

5.5.9着磁したバリウムフェライト磁石を鉄板などに吸引させて,磁化されていることを確認する.

5.6 見かけの残留磁化の測定

5.6.1バリウムフェライト磁石の外径D[m]と厚さh[m]を測定する.

5.6.2バリウムフェライト磁石の外径が8.45mmから8.85mmとなるように,外周にメンディングテープを巻く.

5.6.3メンディングテープを巻いた状態でのバリウムフェライト磁石の質量M[kg] を測定する.

5.6.4基準磁石の厚さhref[m]を測定する.

5.6.5バリウムフェライト磁石と基準磁石の極性を調べて,反発する組み合わせを確認する.

5.6.6バリウムフェライト磁石を透明プラスティック管に入れ,図3に示すように,反発する組み合わせとなるように基準磁石の上に透明プラスティック管を立てる.

5.6.7透明プラスティック管のみを上下動させて,バリウムフェライト磁石が磁場の反発に対して平衡する位置を探す.

5.6.8磁場の反発で浮き上がったバリウムフェライト磁石の下面から基準磁石の上面までの距離L'[m]を,配布した物差しで測定する.

5.6.9もう1つのバリウムフェライト磁石についても同様に測定する.

5.6.102つのバリウムフェライト磁石を吸引させて1つの磁石とし,同様に測定する.

5.7見かけの残留磁化の計算

5.7.1磁場の反発で浮き上がったバリウムフェライト磁石と基準磁石の中心間距離L[m]を次式から算出する.

5.7.2次式から,バリウムフェライト磁石の磁気双極子モーメントμ[wbm]を算出する.

 ここで,μは真空透磁率(4π×10[wb/A・m]),Mはメンディングテープを巻いた状態でのバリウムフェライト磁石の質量[kg]gは重力加速度(9.81[m/s2]),μrefは基準磁石の磁気双極子モーメントであり,本実験では1×10[wbm]を用いる.

5.7.3バリウムフェライト磁石の磁気双極子モーメントμから,次式を用いてバリウムフェライト磁石の見かけの残留磁荷m[wb]を算出する.

5.7.4バリウムフェライト磁石の見かけの残留磁化Id[wb/m]を次式から算出する.

6.参考文献

6.1セラミックス一般

1.無機材料化学Ⅰ,Ⅱ: 野田稲吉編,加藤悦郎,中重治,野田稲吉著,コロナ社

2.セラミックス材料科学入門(基礎編,応用編): Kingery et al.,小松他共訳,内田老鶴圃新社

3.マグネトセラミックス: 岡本祥一,近桂一郎著,技報堂出版

4.セラミックプロセシング: 水谷惟恭他共著,技報堂出版

6.2磁性体物理・磁気工学

1.固体物理学入門(上,下): C.Kittel著,宇野良清他共訳,丸善

2.強磁性体の物理(上,下): 近角聡信著, 裳華房

3.実験物理学講座”磁気”: 近角聡信編, 共立出版

4.磁気工学の基礎Ⅰ,Ⅱ: 太田恵造著,共立全書

5.フェライト: 平賀貞太郎,奥谷克伸,尾島輝彦共著,丸善